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前例を捨てよ、街へ出よう

 
テレビの前で24時間だけ応援する感動ポルノ
インスタ映えするかどうかで選択するランチ
ツイ消しする前に読んでよ!という本心をミスリード
facebookにあげるためだけに撮る写真
 
 
ときどき、誰にも会いたくないけれどひとりぼっちにもなりたくない
なんていう面倒くさい気持ちになると向かうネットカフェ
壁越しの人の気配が欲しいために入る個室
せきばらいと一緒にページをめくる音
キーボード連打するネットゲームの音
もうだめかもしれないから
世界には他人がいるのだと知らしめてくれ
もう一度、孤立したら今度こそだめかもしれないから
わたしだけの世界じゃないよと
こうして知らしめてくれ
 
 
今まで黒で塗りつぶした自分自身の人数
今までなかったことにしてきた地獄の日数
今まで飲み込んできた言葉の文字数
今までゴミ袋に入れた「わたしは気持ち悪くないですか?」の回数
 
 
傷ついたり落ち込みそうになったりしたときに
わたしはわたしなんていちいち思わなくていいような自分でいたいし
「アイアムミー」じゃねんだよなぁ、と思いながら
薄暗い高架下を高田渡の「私は私よ」を聴きながら歩いた
ゆるいギターと力ない声でくりかえす「わたしはわたしよ」
誰にも追いつけないし、わたしはわたしよ
わたしはわたしよ、わたしはわたしよわたしはわたしよ
そう言ってないと もうだめかもしれない
を、3回と半分繰り返せば1駅分を歩き終わる
 
 
もうだめかもしれないから
誰もわたしに入ってこられないようにしたい
もう一度だめになったら今度こそだめかもしれないから
誰もわたしから出られないようにしたい
 
 
バスの降車ボタンを押そうと手を伸ばしたら、誰かが先に押した
隣の列には、わたしと同じように伸ばかけた手をひっこめた誰かがいて
「あ、どうも・・」という苦笑いをする
同じ場所で降りる誰かがいて
同じようにボタンを押そうとした誰かがいて
同じように手を伸ばしたわたしがいて
他人がいる世界の生ぬるさは湿っていた
 
 
学生時代は毎日「今日こそもうだめだ」と思いながら、
同じバスに乗り続けていた
だけど死ななかったし、
今日こそもうだめじゃなかった
 
 
左腕に残っている傷跡が恥ずかしくて
バスのつり革が持てなかったことが夏の思い出
衣替えの憂鬱、半袖を着ない理由をごまかすことが
面倒で人を避けるのが夏の思い出
 
 
自分自身が選んだから言い訳のできない孤独
今日も明日ももうだめだと思っていた
だけど死ななかった
 
 
息苦しいような弱冷房車で汗を拭くサラリーマンの
青いチェックのハンドタオルについていたラルフローレンのマーク
仏像の前で熱心になにかを唱えている女性が
後ろでひとつに結んでいた髪の毛のゴムの蛍光イエロー
脳性麻痺の友人男性が電車の席が1つだけ開くと
先にわたしを座らせるレディーファースト
自動販売機で飲むヨーグルトのボタンを押す直前で迷っていた人は
結局、何を選んだのだろう
 
 
オンリーワンではなくワンオブゼム
わたしたちは別々の人間だし
同じ人間なんだよ
別々の人間だし、同じ人間なんだよ
 
 
だから気になっている
あなたが何を見てきたのか何を読んできたのか、
どんな言葉を支えにしてどの音楽のどのフレーズに励まされてきたのか
自動販売機で何を押すのかスマホのロック画面は何が映っているのか
パスワードを忘れたとき用の「秘密の質問」に何を設定しているのか
同じ場所で生きているあなたのことが知りたい
 
 
一晩中過ごしたネットカフェで迎える早朝の不愉快さ
あんなに物音を立てて欲しいと思っていたくせに
自分がうとうとしかけると「うるさいなぁ」と思っている矛盾
結局ひとりぼっちでもひとりぼっちじゃなくても
なんだってわたしはわたしで死にもしないし
黒いリクライニングシートの上でデスクライトの蛍光灯に照らされているままだった
 
 
「なんだっていいよ」っていうのは
突き放しているように聞こえるかもしれない
だけど時々、大きな愛に思えるときがある
 
 
「なんだっていいよ、どうしたっても、あなたはあなただし。」
 
 
だからわたしはなんだっていい
あなたもなんだっていいよ
そのままでもそのままじゃなくてもいいよ
 
 
わたしたちは十人十色のワンオブゼムだ
わたしたちは別々の人間だし
同じ人間なんだよ
別々の人間だし、同じ人間なんだよ
 
 
「今度こそもうだめだ」と繰り返し続けた毎日は
ちゃんとあなたを今日に連れて来た
今まで感じて来たすべての孤独は
抱えきれなくて溢れ出したすべての孤独は
ちゃんと自分自身の味方だったのだ
 
 
だからあなたに会いに来たんだ
「今度こそもうだめだ」と繰り返し続けた毎日が
ちゃんとわたしを今日に連れて来たから
 
 
だからあなたはそこにいるんだ
「今度こそもうだめだ」と繰り返し続けた毎日が
ちゃんとあなたを今日に連れて来たから
 
 
前例を捨てよ、街へ出よう
前例を捨てよ、カウンター達の朗読会へ行こう
前例を捨てよ、僕らは出逢おう
前例を捨てよ、僕らは出逢おう
前例を捨てよ、僕らは出逢おう
前例を捨てよ、僕らは出逢おう
 
 
なんとでも言え、これが本気だ

 
 
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