連載

書籍

交換日記

webインタビュー

この衝動はきみのもの

 
知らない家の玄関のドアにつるされている 
「welcome」のプレートを見るたびに 
毎日とんでもなくうらやましい気持ちになるのだけど 
どう「うらやましい」のかっていう理由がわからない 
 
知らない人の穏やかな生活をつづるブログに 
なりたかった自分の像を投影している 
 
夫婦が柴犬を飼って、 
柴犬が子供を産んで、 
長女が大学で東京へ引っ越して、 
その間に猫が増えて、 
大学を卒業した長女が就職のために実家に戻り 
現実のストーリーは続く、 
そんなブログを10年近く、毎日毎日読み続けている 
 
穏やかな日常を大切にできる生活や人に羨望し続けて 
真似をしては結局ぶち壊して逃げてしまうのは、 
わたしの人生のこれまでに 
「穏やかな日常」なんてそもそもなかったから、 
それを日常と思えないのだ 
 
だけどわたしでも手にとれる愛情のかたちを 
最近、2つ手に入れた。それは魔法の言葉だ。 
「お誕生日おめでとう」と「おかえり」 
これは「生きていてくれてうれしい」 
と同じ意味に思える。 
 
ツイッターから離れていた人が帰ってきたときには言いたい。 
退院したりょうさんには言いたい。 
このライブに来てくれた人には言いたい。 
「おかえり」「おかえり」「おかえり」 
「おかえり」「おかえり」「おかえり」 
 
あなたの生まれた日には言いたい。 
あなたの誕生日には言いたい。 
「お誕生日おめでとう」「お誕生日おめでとう」 
「お誕生日おめでとう」「お誕生日おめでとう」 
 
これがわたしにできる、わたしにもできる、 
逃げ出さずにできる愛情の形だ。 
愛しているよと伝える言葉だ。 
 
ときどき気持ちが伝わらないこと、 
ときどき言われる心ない言葉のこと。 
眠れなくて開いたツイッター、 
クリープハイプの尾崎世界観botの 
「悪口ってやっぱ言われたくないよな」 
という言葉が流れてきた。 
 
幼少期に家の中に罵声が飛び交っていたせいで、 
学校で声がキモイって言われたせいで、 
すっかり言葉には不感症で、 
もうだいたいなにも感じなくなってしまったけれど、 
言われなくていいなら言われたくないよなぁ 
という当たり前のことに気付いた。 
 
そんなbotしかいないような夜中の時間帯に 
自分語りをしている人のことが愛おしくてたまらないし、 
翌朝、それがツイ消しされていると 
秘密の暗号を解いてしまったような気持ちがして 
ますます愛おしくてたまらない。 
 
すぐに古くなるLINEの言葉、 
すぐに古くなる自分の気持ち、 
すぐに古くなる流行語やネットスラング、 
つぶやいては流れていくタイムライン、 
消えてしまうものが愛おしくてたまらない。 
全部使って全部消費しつくしたくなる。 
どうせなくなるのだから。 
 
Youtubeが不適切だといって消したわたしのライブ動画も。 
Amebaが不適切だといって消したわたしのブログの言葉も。 
感情はとても簡単に、くだらない理由で踏みにじられる。 
出身地、新潟県三条市の市議が、 
地元エフエムのおねえキャラパーソナリティに 
「社会常識からして、正常な形でない人を支援する必要はない」 
と発言をした。 
 
衆院厚生労働委員会で障害者総合支援法改正案の 
参考人質疑で 当事者であるALS患者の出席が拒否された。 
呼吸器をつけていてヘルパーが口元を読み取るやりとりに 
時間がかかる、という理由だった。 
 
なんのための支援だよ、 
バトンまわすのもひろうのもめんどくさいなんていって 
自分だけ生き残ったら孤独死するぞ 
 
できるときにできる人ができることをやればいいだろ 
わたしはいま言葉を読む係をやるけど 
これが終わったら床にねころんでアイスを食べる係をやるつもりだ 
でもいまは言葉が読めるからその係をやっている 
 
地元新潟でのライブに、 
指先しか動かせない進行性筋ジストロフィーの方が 
毎回毎回、電動車椅子で、片道2時間以上かけてきてくれていた。 
そして、わたしに「アイコちゃん、夢にむかって舞い上がれ」と 
手書きのポストカードを書いてくれた。 
あの重み、分かるか? 
あの重み、まじで、分かるか? 
切り落とすなよ、あの重みを切り落とすなよ 
命の重みと人が生きていることの重みを無視するんじゃねえよ 
 
どうしたら伝わるんだ。 
どうしたら伝わるんだよ。 
想像力の問題ですらないだろ、そんなの。 
命のことや心に関してのことは、譲ってやったりしない。 
憤ったらダサいとかない。本音がダサいなんてない。 
この感情をへし折らせない。 
わたしの意志はわたしが守る。諦めて自分で折ったりもしない。 
 
人が死ぬということは、 
スマホのホーム画面にカウントアップアプリが張り付くということ。 
恋人同士が使う「付き合った日から何日?」を知らせる 
かわいいくまモンのアプリが 
あの子が死んだ日からの日数を数え続けるということ。 
 
人が死ぬということは、 
約束した日が来てもあの子がいなくてわたししかいないということ。 
何もないんだ。何もなくなる。ある日突然ゼロになること。 
 
人が死ぬということは、 
高円寺駅のホームでの約束も、 
一緒に買いに行ったフライパンの置き場所も、 
定食屋さんのご飯が多すぎるから次は少なめって言おうねとか、 
それが全部なくなること。 
 
人が生きていることの実感、 
人間が生きていることの実感、 
どうしたら伝わるんだよ。 
 
だから、あがき続けたい、わたしは投げかけ続けたい、 
感情や出来事や、確かにあったことについて 
なかったことにするスルースキルなんていらない。 
 
わたしたちが、 
わたしたちが、365回繰り返し続ける24時間の中には、 
意味のないものなんてなかった。 
だから市議会委員じゃなくてわたしたちに喋らせろ! 
意味のない感情なんてなかった。 
だからわたしたちに喋らせろ! 
だから、わたしたちに喋らせろ! 
だから、わたしたちに喋らせろ! 
 
わたしの衝動はあなたには作れない、 
わたしの衝動はわたしが作るから。 
あなたの衝動はわたしには作れない、 
あなたの衝動はあなたが作るから。 
あなたのストーリーに沿わない、わたしを生きる 
今度はもう、誰かのブログに沿わない、わたしを生きる 
誰かに自己投影して自分を分裂させない、わたしを生きる 
わたしを生きる、わたしはわたしを生きる 
 
だからあなたはあなたを生きている 
あなたの人生はわたしには作れない 
あなたの人生はあなたが作るから。 
あなたの衝動はわたしには作れない、 
あなたの衝動はあなたが作るから。 
あなたの衝動は、あなたが作るから。 
あなたは、あなたを生きているんだ。 
 
もっと知りたい、気持ちのことを。 
もっと知りたい、あなたの悲しみを。 
 
そして、また、 
さみしくなるなら、次の予定を作ろうね。 
死にたくなったら、次の予定を作ろうね。 
こうやって、次の予定を作り続けるから、生きていてほしい。 
 
これがわたしにできるバトンのまわしかただ 
受け取ってくれ 
これがわたしにできる生きるバトンのまわしかただ 
どうか持っていてくれ 
どうか持って帰ってくれ 
持って帰って次の人に繋いでくれ 
 
これがわたしにできる 
バトンのまわしかただ 
 
放ちたい言葉があるから左手でぎゅっと握ってお守りにする。 
 
だから、次回のライブでこう言うね。 
「おかえり」 
 
 
≫戻る