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あなたが望むのなら

 
使いにくい iPhone を見もしないでスクロール
眠れないだけで死にたくなる 部屋の天井が光る
受信フォルダに数字のマークのぶんだけ届いた言葉を読みながら
送信ボタンを押したあなたの気持ちを思う
眠れないだけで死にたくなる ばかみたいでしょう
だけどあなたはわかってくれるような気がしました
ブルーライトカットの灯りは少しだけ黄色くて
この部屋の真夜中は 日が暮れきる直前のようです
 
目が覚めて あれからいつ寝たんだろうと考えても思い出せません
部屋の外は冬 部屋の外は朝
わたしだけが1日をはじめられずにいました
思い出は優しいと言ったのは誰だったでしょうか
冬が来るたびに 忘れてしまいたい思い出に追い詰められる気持ちを
どうして優しいものにできるでしょうか
 
わたしが優しくなるためには
思い出ごとなかったことにするしかないような気がします
わたしが優しくなるためには
自分の人生をやめないように
こうして人に会い続けなくてはいけないのなら
読み終わった瞬間に消える言葉を 写真のようにしてほしい
声が消えた瞬間になかったことになる言葉を
存在しているよと笑いかけてほしい
大丈夫だよが永遠に聞きたいのです
 
マフラーだけを巻いて ライブの前に入ったコンビニ
猫背のおじいさんが競馬新聞を買っていきました
もう片方の手には
わたしが意味もなく買った 80 円の紙パックの野菜ジュース
 
(この野菜ジュースおいしいけどさ、きっと野菜入ってないよね)
 
閉まる自動ドア ファミリーマートのチャイムが消えていきます
あなたがこれからの家路 下を向いて歩くのなら
わたしが先回りして その道に
この部屋の光くらい弱い灯りをともしておきたいのです
見落としてしまわないように 下を向いていても気がつくように
あなたの道に先回りして
この光ぐらいかすかな愛を落としておきたいと思いました
 
あなたが望むのなら その人生を消さないでいてほしい
あなたが望むのなら その人生をなかったことにしないでほしい
あなたが望むのなら わたしたちに預けておいてほしい
そうしたらわたしはきっと わたしはきっと優しくなれる
あの思い出に優しくすることができるから
あなたが望むのなら その人生を消さないでいてほしい
あなたが望むのなら わたしたちはきっと優しくなれる
あなたが望むのなら あなたが望むのなら あなたが望むのなら
あなたが もしも
あなたが もしも 望むのなら
 
この人生が消えてしまわないように
わたしたちは小さな約束を作り続けよう
 
 
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