あなたが人間なら

 
小学校のころ学校の先生は「先生」っていう生き物だと思ってた。 
中学校のころ同級生は「同級生」っていう生き物だと思ってた。 
無駄に長い休み時間をつぶすために、遠くの校舎まで水を飲みにいった。 
水道はいつも鉄のにおいがして、窓の外からは笑い声がしてる。 
でもほかにやることもなかったし、帰る場所もなかったし。 
家族はいがみあうものだった、 
家族は学校よりも、もっと、もっともっともっと戦場だった。 
祖父からなぐられたほうきの柄の向う側に見えたのも、 
そうだ、 
青空だった。 
 
 
暴力にとりつかれた祖父もわたしを捨てて出て行った父親も大嫌いだった 
男性なんてみんな死ねばいいと思った 
だから知りたくなかった 
父親はわたしと同じように自分の親から置き去りにされた子供だった。 
そんなこと知らなくてよかった。 
家族なんていつまでもただの憎むべき記号でよかった。 
連鎖してる、連鎖してしまった、わたしも父親も祖父も 
暴力と罵倒にまみれた中で育ってしまった。同じだった、同じだった。 
同じだった!同じだった!!!!! 
そして憎んでもいいはずだった対象は、人間になった。 
傷つくこころがある人間だった。 
愛されたくて愛されたくてさみしくて死にたい人間になった。 
 
 
自分の親、自分の子供、大事です。大事にすることは大事です。 
助けることは大事です。見放さないことは大事です。手助けは大事です。 
でも親は人間です。 
先生だって人間でした。 
だけど子供も人間です。 
みんなただの人間だった。 
それぞれに欲望があって自分のことを生きていました。 
 
 
わたし、自分の名前が重たすぎるんだよ、お父さん。 
愛ってなんだよ、愛情ってなんだよ、 
できないくせになんで愛なんてつけたふざけんなよ 
もしもわたしが男の子に生まれていたら「勇気」をつけるつもりだったと知ったのは 
父親が家族ではなくなってしまってからのことでした。 
それでもさ、ねえ、愛と勇気なんてアンパンマンだよ。 
単純すぎて、だから誰にでも分かって、涙が出そうだよ。 
 
 
わたしはたぶん一生あなたを許せないし、 
あなたに愛されたくてたまらないんだと思う。 
だから本当はもう思い出したくもない。 
だけど人間なら、 
あなたは、 
幸せになるべきだと思う。 
 
 
あなたは人間です。 
人間は悲しみや幸せを感じることができます。 
それは全然悪いことはないです。 
支えたい人が調子を崩したとき、見捨てないことは確かに大事です。ありがたいです。 
だけどそんなときも、なにか自分に嬉しい出来事があったら、そんな瞬間があったら、 
それを嬉しいなって感じることを押さえつけたり 
罪悪感をもったりどうかしないでください。 
 
 
この体で生きていくんだからな 
この心で生きていくんだからな 
手首がぼろぼろでも、愛憎にまみれていても 
その体と心で自分を守っていくんだ。 
犠牲はきっとあります。我慢もあります。 
でもあなたは人間だから、自分の子供や自分親と同じ人間だから。 
あなたはあなたの人生を生きていていいんだよ。 
あなたは幸せだと感じてもいいんだよ。 
あなたはうれしいことに笑ってもいいんだよ。 
きみがいてくれてもいいんだよ。 
 
 
ここにいるお父さん、お母さん、 
当事者のまわりにいるすべてのひと、 
どうか、自分の人生のことも、大事にできたら
できたらでも、いいから。
 
 
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