ヘッドライン
「では、次の話題です」ではじまる政治スキャンダルと人の命の話が
同列で扱われる。ときどきおかしくなる優先順位。
風潮が知りたいからつけっぱなしのテレビ。
ネットスラングで埋まる中高生専用SNS。
スクールカーストで決まる使ってもいいボールペンの色。
“自業自得”で簡単に片付く名前を知らぬ誰かの生存権。
見出しだけ読めば分かったつもりになれるネットニュース。
ローンを組んでも買いたい自己肯定感。
石鹸とリネン室の匂いがする雑居ビルでお金を出して買った愛情。
予備校のビルに掲げられた学生ローンの受付。
奨学金返済のために休学する大学生アルバイトのニュースをスクロール。
再生し続けるミュージックアプリで簡単に消えた雑音。
と、同じく消されてしまった救急車のサイレン。
わたしを殴るあの人に投げ捨てた「じゃあ殺せばいいのに」という言葉。
過労死しないともらえないねぎらい。
もっとたいへんな人がいるのだから、と消された声。
保存もせずに削除したひとりごと。
悲しくない人の死なんて、わたしの人生に一度もなかった。
その全部を、わたしたちがこうして覚えていると約束をしよう。
こうして一緒に覚えていたら今日はいつまでも消えないから。
ひとつになれないわたしたちは寂しいから、
いつも行く坂道を陽気に登り続ける。
あなたが真夜中につぶやいてから
なかったことにして消した汚い言葉は、
何度も書きなおして整えられた文章の何倍も美しかったよ。
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