ぼくたちが優しくなるためには

※津田一矢さんに向けて書き下ろしたテキストです

 
きのう 一度手放した人生へ戻る道すがら
最初に住んだあの家から
お味噌汁の匂いがしてね
それはまるで
まだ生きろ、と耳打ちされたみたいだったよ
 
公園を過ぎても なお
だいぶ歩かないと帰れない家には
実は不満がたくさんあったけれど
忘れてしまうことをさみしがるあなたのために
今日までのできごとを振り返ろうか
 
取り替えられたカーテンの色は
ぼくたちならきっと選ばないみどり
いつになったら完成するんだろうと
毎日眺めていた駅前の再開発は
何年も前に終わっていた
 
見覚えのない風景が
これからもきっと増えるのだけど
あなたには一緒にさみしがっていてほしい
 
今夜あなたの夢を見たら
次に来る冬は雪が降る
 
今夜あなたの夢を見たら
次に来る春は木蓮が咲く
 
今夜あなたの夢を見たら
ぼくはもっと優しくなる
 
今夜あなたの夢を見たら
あなたには
一緒に
さみしがっていてほしい
 
 
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