「釜が崎に雪が降る / 冬の三角公園」(釜凹バンド&成宮アイコ)
【成宮アイコ】
三角公園の階段に座り、
50円で売っている見たこともないメーカーの缶コーヒーを飲む。
のどが焼けるように甘ったるい。
甘すぎておいしくないなぁと思いながら、笑いがこみあげてくる。
道端に置いてあるボロボロに破けたソファに座って食べる150円の露天のこぶうどん。
その目の前で売られていたパッケージが色褪せすぎている熟女AV。
真夜中に聞こえる怒号とシャッターに何かがぶつかる音。
スナックからだだ漏れしているカラオケ。
寂しさと欲望と怒りと、隠しきれない人間味。
あーあ、しょうもないなぁ~、と力が抜けてふっと笑ってしまう瞬間。
自分自身が戻ってくるような気がする。
それはわたしの寂しさであり、人と話したいという欲求であり、
どんなに嫌なことや苛立ちがあっても結局は人間が好きでたまらないんだよな、という単純な答えなのだ。
こんなに寒い、12月の商店街。
「ねえちゃん、寒いなあ」と声をかけてとおりすぎていく自転車のおっちゃん。
今年もまた、雪が降るだろうか。
【釜凹バンド】
釜が崎に 雪が降る
置き去りの自転車に 雪が降る
ころがった空き缶に 雪が降る
路地の男に 雪が降る
降る 降る 雪が降 る
降る 降る 冷たい 雪
降る 降る 雪が降 る
降る 降る 冷たい 雪
【成宮アイコ】
今年の春ここ『難波屋』にて『釜凹バンド』と一緒にツーマンライブをした。
ライブ前日の夜、泊まっていたココルームを抜け出し、
釜ヶ崎を突っ切って阿倍野区へ向かった。
行政の窓口が閉まってしまう年末年始を生き抜くための活動「越冬闘争」で、
フリーライブの最中に”あべのハルカス”に向かって、
中指を突き立てていたおっちゃんがいたという話を急に思い出したから。
釜ヶ崎の街のどこからだってあの姿は見えているのだけれど、もっと高さを感じたかった。
あそこにのぼったら、今ここにいるわたしのことも
どうにもつらくて死にたくなってここに来たわたしのことも
きっと見落とされるのだ。
だから、自分自身が見落とされる感覚を、もっと味わおうと思ったのだ。
生活感のない高層マンション。
階段を降りると飛田新地。
家のあかり、ボクシングジムの蛍光灯、たこ焼き屋さんの電球。
古い民家からお味噌汁の匂いがする。
「おにーちゃん、この子いい娘やで」と呼び込みの声。
風景に飲まれて、わたしはちゃんと生きている。
【釜凹バンド】
街に明かりが 灯り出す
男達が 帰ってくる
夕飯の匂いが 流れる
アンコの声が 聞こえる
街 街 街 から
街 街 街 から
街 街 街 から
あなたの声が 聞こ える
【成宮アイコ】
飛田新地の明かりを背中に、
そびえ立つ300メートルの超高層ビル”あべのハルカス”を見上げる。
すべてのものが流れ着くというあの街は、
どうしようもない状態のわたしのことも受け入れてくれた。
孤愁は味方だったのだ。
抱えきれなくて溢れ出した孤愁は、ちゃんと自分自身の味方だった。
死にたいと思って流した涙の分だけ、
あいつの声きもいって言われた悪口の分だけ、
わたしの孤愁はちゃんとわたしの味方だったのだ。
このライブは復讐ではない
わたしを捨てた家族への復讐ではない
悪口を言われた同級生への復習ではない
この街で出会った人への決意だ。
わたしは死なない、わたしは死なないし、あなたも死なない。
次に会う約束をするから、だからわたしたちは死なない。
今までなにかに中指を立てたことがないし、今後もしないだろう。
だから”あべのハルカス”に向かって、小指を突き立ててみた。
「いいか、あべのハルカス、これは約束だぞ。
わたしは自分のことを諦めないからな」
【釜凹バンド】
あなたはきっと やって来る
自転車に乗って やって来る
あまがっぱを着て やって来る
男達に見られながら やって来る
来る 来る あなた は
来る 来る きっと 来る
来る 来る あなた は
来る 来る きっと 来る
【成宮アイコ】
余計なお世話だと言われようと出会った人、そして出会ってしまった人のことも、
納得がいかない言葉のことも、諦めない。
いいか、あべのハルカス!
これは、約束だ。
孤愁は味方だったのだ。
抱えきれなくて溢れ出した孤愁は、ちゃんと自分自身の味方だった。
わたしの孤愁はちゃんとわたしの味方だったのだ。
孤愁は味方だったのだ。
いいか、あべのハルカス!
いいか、あべのハルカス!
これは約束だぞ。
わたしたちは自分たちのことを諦めないからな!
これは約束だ、
わたしたちは自分たちのことを諦めないからな!
これは約束だ、
わたしたちは自分たちのことを諦めないからな!
【釜凹バンド】
釜が崎に 降る雪は
疲れた体を 安らげる
釜が崎に 降る雪は
哀しい心を なぐさめる
降る 降る 雪が降 る
降る 降る 冷たい 雪
降る 降る 雪が降 る
あなたのような 白い 雪
【成宮アイコ】
甘ったるい50円の缶コーヒー。
ボロボロに破けたソファで食べる150円のこぶうどん。
パッケージが色褪せた熟女AV。
真夜中の怒号。
街中に漏れているカラオケ。
寂しさと欲望と怒りと、隠しきれない人間味。
こんなに寒い、12月の商店街。
「ねえちゃん、寒いなあ」と声をかけてとおりすぎていく自転車のおっちゃん。
今年もまた、雪が降るだろうか。
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